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「健康診断で引っかかりました」そう素直に申告すると、俺の周りにいた居酒屋の常連客が案の定といった顔になった。
こまめに動いて働いている多恵さんが、目をパチパチと瞬かせる。長くてマスカラのついたまつ毛が可愛らしく動いた。
その隣で手伝いをしている大学生の茉莉ちゃんが眉間にシワを寄せる。まだ思春期が終わっていないこの子は、いつでもどこでも機嫌が悪い。特に俺が多恵さんに鼻の下を伸ばしていると、尚のことだ。
「ギリギリのところでセーフだったんじゃないの?」
身を乗り出して小声で返されたので。
「そうであると思いたいんですが」俺は哀し気にため息をついた。
「例えば何だよ?」
「まず血圧です。それと血糖値。どうしようもないのは俺の腹ですよ。メタボリックシンドロームってことですね」
「アンタがどうしようもないのはいつものことじゃん」
茉莉ちゃんは、ケラケラと笑い飛ばしてくれた。まだ大学生だから、この三項目で引っかかるというのがどれほどマズいことなのか分かっちゃいないのだ。
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