相沢

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 案の定、俺と茉莉ちゃんの会話を聞いていた周囲のお客さんが同情を顔に浮かべている。 「おいおい……兄ちゃん。高血圧とメタボはまだしも、糖尿病ってのはえらくないかい。それこそ、こんなところで飲んでていいものなのか?」 「そうだそうだ」 「いえ、血糖値はまだ引き返せる段階なんです。医者に言われたのは、むしろもうちょっと体重を落とせということでして……」  居酒屋の客の視線が、俺の皿の上に注がれた。 そこに乗っているのは、揚げたてサクサクの串カツである。ソースに浸されて、今にも俺の口でハーモニーを奏でようとしているところだったのに、それを聞いた茉莉ちゃんが素早く皿を回収してしまった。 「あ……」  なんて酷いことをするんだ。 客に一旦出したものを取り上げるなんて、横暴にも程がある。 俺の串カツ!――串カツ!! 「茉莉ちゃん、そんなことをしちゃダメよ」  多恵さんが困り顔で彼女をたしなめた。そのまま小声で囁く。 「私も確かに最近の相沢君は太りすぎだと思うけど、一応お客様なんだから」 「だって、コイツさっきまで十本も食べてたんだよ?」  俺の串カツを没収した茉莉ちゃんは、ぶすっと唇を尖らせている。それよりもぐさぐさ突き刺さってきたのは、若女将の『太りすぎ』という言葉だ。
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