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「え?」
「浮遊魚を捕まえに行くんでしょう? 旅支度とかあるんだから早めに教えてくれないと」
「え、あ、その……」
「なあに? まさかわたしが準備万端整えて送り出してくれるとでも思ってたの?
ダメよ、自分でもちゃんと用意しなくちゃ」
母は昔から先走りする癖がある。
「違うって、おれが旅に出ると母さん一人だろ、だからどうしようか悩んでたんだよ」
「まぁ、わたしのせいにする気?」
「そうじゃないけど、これから忙しくなる季節だし、一人じゃ困るだろ?」
父がいなくなってから我が家での男手は自分一人。
なのでそれを放り出して旅に出ることに抵抗があった。
「大丈夫よ、うちのことは気にしないでいってらっしゃい」
「いいよ、冬に行く」
農閑期の冬なら母の負担も軽くなる。
「なに言ってるの、浮遊魚のいるところはここよりずっと北の山奥なのよ、
冬に行ける訳がないでしょう」
確かに、山育ちでもなければ、雪さえ知らない自分が雪山など登れるはずもなかった。
「いいからさっさと行ってさっさと帰ってらっしゃい」
まだ少し迷ってはいたものの、母の判断の方が現実的なのは事実。
なので出発する決心を固めた。
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