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「満月だね」
「きれいだね」
「うん」
なんてことない会話。
でも言葉を交わす度に繋いだ手をきゅっと握り合った。
歩いて五分ちょっとの距離なら、もうすぐ先輩の家に着いちゃうんだね。
心の中でため息をつく。
足りないよ、先輩。
もっと遠かったら良かったのに。
「ね……相原」
「んー?」
「あのね……。この後……」
先輩の歩調がゆっくりになって、言いにくそうに口籠もった。
ね、先輩。
先走っていいですか?
だって俺が気付かない間、ずっと待っててくれたから。
だからこれからは、先輩は何も言わなくていいよ。
格好悪いことは全部、俺が言うから。
……勘違いでありませんように。
「先輩。帰りたくない」
しくじった。
これじゃ女の子の台詞だ。
言った瞬間、自分で吹きそうになった。
でも梨香子先輩は笑わなかったから、そのまま続けた。
「行っていい?」
我慢するから。
でも、それぐらい、先輩ともっと一緒にいたいんだよ。
「うん……」
俯いた梨香子先輩がきゅっと俺の手を握った。
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