恋する唇

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「ねぇ、相原」 「んー?」 「お布団なしで寒くないの?」 「全然」 「そっか……」 私の部屋の、小さなベッド。 なぜか私だけ掛け布団でぐるぐるに巻かれている。 相原はそんなミノムシ状態の私を後ろから抱っこして満足気だ。 子供の添い寝か!と言いたくなるのをグッと飲み込んだ。 “先輩が好きだから” 遡ること一時間あまり前。 聞けるはずのない言葉を相原の腕の中で聞いた。 気持ちが伝わらないのは、私が素直じゃないから。 なのに分かってもらえないことに理不尽に腹を立てて、せっかく頑張って取ってくれたブーケを投げ付けてしまった。 相原はそんな可愛げのない私を追い掛けて抱き締めてくれた。 高い肩、長い腕、強い力。 子犬みたいに扱ってたけど、やっぱり相原は男なんだって思った。 “帰りたくない” “行ってもいい?” あれは、もっと一緒にいたいって言葉が素直に言えない私を察してくれたんだと思う。 相原はそんな奴だ。 のほほんと笑ってるのにちゃんと周囲を見ていて、決して相手に嫌な思いをさせない。 私の気持ちにはなかなか気付いてくれなかったけど。 でも、無意識に自分より相手を立てる気遣いをする、優しい子だ。 なのに今。 “子供の添い寝”じゃ不満な女心にまったく気付いてくれてない。
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