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ベルを鳴らすと、美香先輩と同年ぐらいの男性がドアを開けた。
イケメンじゃないけど、とても感じのいい優しそうな笑顔の人。
「おかえり美香ちゃん……あっ、またやっちゃったんだ!いつもごめんね、梨香子ちゃん」
“美香ちゃん”に吹き出しそうになりながら頭を下げる。
「美香先輩にいつもお世話になってます。職場の後輩の相原です」
「あ、後藤です。美香が本当にご迷惑おかけしました」
「いえ!」
「帰りは?もう電車ないよね。梨香子ちゃんは近所だけど、相原君が……タクシー呼ぼうか?」
喋ってる最中に突然、美香先輩がスクッと自力で立った。
「大丈夫!相原は梨香子んちに泊めてもらいなよ」
「えっ、それはちょっと……」
梨香子先輩と俺の両方が目を剥いた。
「相原んちタクじゃ遠いし!」
知らんだろ、相原君の家。
「梨香子ちゃんちはまずいよ。そうだ、狭くて申し訳ないけど、良かったら相原君うちに泊まっ」
「大丈夫だって!」
妙にしっかりした口調で遮ると、美香先輩は俺の手から引き出物とバッグをひったくった。
「ああ吐きそう!純ちゃん、トイレ連れてって!早く早く」
呆気にとられてる間に目の前でドアはバタンと締まって、向こう側の騒ぎ声が遠ざかっていった。
「……」
梨香子先輩と顔を見合わせる。
「帰ろっか」
「はい」
脱力して笑うと、階段を下りはじめた。
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