先輩が好きだから

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数歩で追い付く距離。 先輩は小柄で、しかも走りにくいヒール。 なのに、これっきり遠くに行ってしまいそうな気がした。 「先輩、待って」 すぐに先輩の腕を捕まえた。 「先輩、ごめん!嫌な思いさせるつもりなんてなかったんです」 「別に謝って欲しくなんか……」 振りほどこうとする先輩を、勢いで後ろから抱き締めた。 「俺、ただ先輩の喜ぶ顔が見たかったんです」 初めて腕の中におさめた先輩。 勢いで言葉が止まらなかった。 「先輩が好きだから」 しまった、言ってしまった……。 その瞬間、腕の中で先輩が固まった。 ああやっぱり、と思う。 それでも繰り返さずにいられなかった。 「圏外って分かってるけど、好きなんです」 せっかくブーケを喜んでくれたのに、これじゃ台無しだ。 でも、黙って他の誰かとの幸せを願うなんて、やっぱり無理だった。 「ごめんね先輩……」 先輩は固まったまま、沈黙が落ちた。 腕の中に二つ入っちゃいそうなぐらい、先輩は華奢だった。 初めて触れる先輩はいい香りで柔らかで、抱き締めるのがあまりに心地よくて放せない。 でも勢いがしぼむと、硬直したままの先輩に決まりが悪くなってきた。 ふわふわの髪から名残惜しく顔を上げて、モソモソと言い訳した。 「あの、体が勝手に……。下心はないんですけど」 たぶん。
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