2125人が本棚に入れています
本棚に追加
数歩で追い付く距離。
先輩は小柄で、しかも走りにくいヒール。
なのに、これっきり遠くに行ってしまいそうな気がした。
「先輩、待って」
すぐに先輩の腕を捕まえた。
「先輩、ごめん!嫌な思いさせるつもりなんてなかったんです」
「別に謝って欲しくなんか……」
振りほどこうとする先輩を、勢いで後ろから抱き締めた。
「俺、ただ先輩の喜ぶ顔が見たかったんです」
初めて腕の中におさめた先輩。
勢いで言葉が止まらなかった。
「先輩が好きだから」
しまった、言ってしまった……。
その瞬間、腕の中で先輩が固まった。
ああやっぱり、と思う。
それでも繰り返さずにいられなかった。
「圏外って分かってるけど、好きなんです」
せっかくブーケを喜んでくれたのに、これじゃ台無しだ。
でも、黙って他の誰かとの幸せを願うなんて、やっぱり無理だった。
「ごめんね先輩……」
先輩は固まったまま、沈黙が落ちた。
腕の中に二つ入っちゃいそうなぐらい、先輩は華奢だった。
初めて触れる先輩はいい香りで柔らかで、抱き締めるのがあまりに心地よくて放せない。
でも勢いがしぼむと、硬直したままの先輩に決まりが悪くなってきた。
ふわふわの髪から名残惜しく顔を上げて、モソモソと言い訳した。
「あの、体が勝手に……。下心はないんですけど」
たぶん。
最初のコメントを投稿しよう!