2422人が本棚に入れています
本棚に追加
***
ちゃぷん、と紗衣が湯を掬う音が湯気でけむるバスルームに響く。
「泡風呂って環境に悪くないのかなぁ。皆がやったら、下水処理場が泡だらけになっちゃう」
「……そうだな」
洗い場という、新婚初夜でどうなんだって場所ではあるものの、ようやく紗衣を抱いてとりあえず満足した俺は、今は彼女希望の泡風呂に浸かり中。
紗衣を後ろから抱いて上の空で返事しながら、まだうごめく不埒な欲望に“おとなしくしてろ”と叱咤する。
「実家近くにすんごい汚い泡が浮いてるドブがあるんだけど、前にお父さんがお財布落としちゃってね。八万円も入ってたから必死で拾ったんだー」
「へぇ」
それにしても何だこの色気のない会話は。
「ドブ入り財布、何万から拾う?」
「そうだな……」
難しい質問だ。
ケチとも見栄張りとも思われたくない。
……いや、待て。
なんで真面目に考えてるんだ。
つか、なんであの“愛してる”の後に汚いドブの話をしてるんだ?
紗衣の肩にお湯をかけてやりながら考える。
そうだ。
もっと聞きたいことがあったじゃないか。
最初のコメントを投稿しよう!