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「えーと……。れ、恋愛の話になってさ……」
紗衣が俺の反応を窺うように止まった。
「戸川君が心配してるようなことはないよ」
呼び方が“戸川君”に戻ってるけど口を挟まず我慢する。
「片桐さんはね、もうとっくに私を振っ切ってるよ。本人もそう言ってくれて、心から祝福してるよって言ってくれた」
「……そっか」
俺の知らない二人の時間。
仕事上の戦友でもある二人。
俺が触れちゃいけない世界が羨ましい。
でも、傍にいることを自ら放棄して彼女を孤独にした一年間を思うと、俺は何も言えない。
もし俺が片桐さんの立場だったら、彼のように最後まで綺麗に紗衣を見守っていられただろうか?
嫉妬する自分を恥じるしかない。
でも、真面目に考えこむ俺をよそに、腕の中で紗衣はムフムフと妙にオバハン臭い含み笑いを洩らした。
「私も日本を離れるし、お節介なんだけど気になっちゃって。あの人ポーカーフェイスだけど、最近、何か違うんだよね」
「違う?」
「うん。ある人には違うの」
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