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「もう、3月なのに、まだチョコが飾られている」。
吉祥寺のショップで恭子は思った。
しかし中にはクッキーも混ざっている。
「そうか、ホワイト・デーか…」。
ふと手に取ってみた、薄ピンクの袋。
桜チョコレートと書かれている。
「うわぁ~、春っぽい!」。
うきうきしながら、買うことにした。
駅ビルを通り抜け、バス乗り場に向かう。
仕事帰りの人達は、まだコート。
でも色合いは淡くなっている。
家に帰ってすぐに袋を開けた。
薄ピンクの包み紙をくるりとひねる。
「確かに桜だ。ストロベリーより、くすんだ色」。
チョコを口にほおばると、「美味しい」と呟いた。
「これを誰に食べてもらおう?」。
といっても、既にあげる人は決まっていた。
100円均一で買った、透明の小分袋。
「3個がいいか、4個は多いな」。
結局3つだけ、綺麗に詰めた。
生成りのワイヤータイで留める。
飽くまでもお裾分けの域を出ない。
でありながらも、想いがこもっている。
数日後、恭子は新宿駅に降りた。
週1で通う英会話教室。
5人グループのわりに、なかなか揃わない。
ただ最低でも2人は出席。
恭子と3つ年下の雄人だ。
雄人は留学経験があり、英語は得意。
だから先生も最初に質問をする。
スピード感溢れる授業が終わった。
恭子は教科書をしまいつつ、ほっと一息。
2人はエレベーターに乗る。
おもむろに雄人が何かを手渡す。
「今日、ホワイト・デーですよね。桜パイ、買って来ました」。
「マジで?嬉しい!」。
興奮を抑えつつ、袋を覗く恭子。
「みんな来なかったから…。まんまあげます」。
言い訳がましい雄人。
「私もこれ、桜チョコ」。
「ありがとうございます」。
雄人はクールに受け取った。
「じゃ、また来週!」。
「はい。チョコ、食べてみますね」。
改札口で別れた後、恭子の胸はどんどん高鳴っていく。
中野でも高円寺でも荻窪でもばくばくした。
「いつもならぐったりの中央線。でも今日はなんて速く進むんだろう」。
同じ頃、雄人は山手線に乗っていた。
そして学生時代に行った、井の頭公園を想い出す。
「久々に行ってみたいな吉祥寺。満開前に出掛けてみよう」。
違う電車の窓の向こう側。
2人には春の風景が浮かんでいる。
そして早くも桜の花が、咲き始めていた。
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