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1.桜の季節
春。
それは出会いと別れの季節。
春休み前まで1年間同じ教室で過ごしたクラスメイトが何人か転校し、高校2年生に昇級した昨日、始業式の次の日というクラス替えをして間もないこのクラスに転入生がやってくる。
「じゃあ早速紹介する。入って」
朝のホームルーム前のそわそわ感が漂う教室に担任の声が響く。ガラッと引き戸を開けてスタスタと入ってきた転入生にみんなが興味を向けた。
少し丸みを帯びた黒の髪に、太い眉。つり目のせいか人当たりはきつそうに見えるけど、整った顔をした男の子。
黒板に『和泉千歌』と小さな文字で書いた彼は、「和泉千歌(いずみちか)です。よろしくお願いします」とテンション低めだ。
和泉千歌くん。綺麗な名前だな。
わたしがそう思った瞬間、バチっと目が合う。和泉くんはわたしを見ると大きく瞳孔を開き、なにかに驚いているようだった。
……変な顔でもしてたかな?
思い当たる節もなく、困惑していると「和泉の席は1番後ろの窓から2番目だ。隣の長谷(はせ)と仲良くしてやって」と担任が和泉くんの席を教える。
長谷ってわたしだ。あ、この左のあいてる机が和泉くんの席なのか。通りで昨日まではなかったのにって思った。
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