花のまぎれに立ちとまるべく

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数日後、貴女は洛西・嵯峨野の野宮へと身の清めに入った。 私は何度、野宮へと足を運んだことか…。 野宮は神聖な空気が漂いながら、昼でも薄暗い。 行くたびに、その神気に気圧され踵を返した。 ……というのは言い訳で、本当は意気地がなかっただけなのだ。 野宮での潔斎の月日は足早に過ぎ、三年後の長月。 いよいよ伊勢への群行となった。 斎宮が伊勢に赴く前、内裏の大極殿で発遣の儀が行われる。 私も役人の一人として儀式に参列した。 帝が平床の座で斎宮を待つ。 ふと、考えてしまった。 今、帝はどのような心中でいらっしゃるのだろうかと…。 妹君が自らの身に代わり、遠い伊勢へと赴く。 退下し、京に戻って来られるのは、帝の譲位や崩御のときだけだから。 私の心中は、どうなのだろう? …想いは振りきれぬまま、三年前と変わらない。 貴女の御心は─────? 「ふふっ‥」 思わず失笑してしまった。 あまりにも、自分が情けない。 ゆるやかな衣擦れの音が耳に届き、貴女が帝の元へと進み出た。 華やかさを誇る宮中の儀なのに、どこかわびしい。 帝が一つの御櫛を取り、斎宮の額髪に挿す。 「京の方に赴きたもうな」 帝の声が重々しく響いた。     
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