花のまぎれに立ちとまるべく

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翌春……。 貴女は誰もが予想できなかった事態で京へと帰ってきた。 「なぜ…帰ってきてしまったのです…‥」 蒼い空に映える真っ白なさくら花。 私は深い墨色に染めた直衣の袖を遠い空へと伸ばす。 「こんなことになるのなら、まだ伊勢にいてくださったほうがよかった‥‥」 涙が溢れて仕方がない。 あのときとは別。 どうしようもない喪失感から……。 今は…もう頬に触れてくれる人はいない。 私は、あの和歌を口にした。 山かぜに さくら吹きまき みだれなむ 花のまぎれに 立ちとまるべく 山からの風で桜が吹き舞って散り乱れて欲しい… 花にまぎれて…… 貴女の逝く道が閉ざされて…… 貴女が現世にとどまるように………
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