1400年の傷と1400年の愛と

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田圃のなかにポツンと建つ、 地元の集会所みたいな小さなお堂のなかに、 その仏さまは座っていた。 細長い顔に、でっかいツリ目。 細身なのに、しなやかさのない硬い身体つき。 おまけに、修理しまくった傷痕が、顔から身体から、全身にありありと浮かんでいる。 「なにコレ! 不っ細工~!!」 「おまっ……日本最古の仏像に、なんちゅーことを!!」 「だってさぁ……どう見たってツギハギだらけで、しかも顔、変じゃん!」 良いもん見せてやると言われて嬉々としてついて来たのに、またしても仏像。 しかもこんな壊れかけの、なんか変な顔つきの。 ……ま、コイツの仏像ヲタクは今に始まったことじゃないけど、 見せてくれるならせめて、溜め息が出るような荘厳な仏さまにしてよ、まったく。 「なんか顔と身体のバランスも変だしさ~。 仏さまって、もっとふっくら柔らかい感じだからこそ、有り難みがあるっちゅーか……」 コイツのおかげで仏像の数だけはソコソコ見てきた私の目から見ても、 その『飛鳥大仏』は異質だった。 「ああ……まあ、今の日本人の感覚だとそうだよな、確かに。 でも日本最古の仏像だぜ、重要文化財を目の当たりにしてるんだぜ? 少しは感動しろよ」 「え、重要文化財なの、このツギハギくんが!?」 「ツギハギがなけりゃ、間違いなく国宝だっつーの!!」 目を三角にして凄む彼の剣幕も、私にはどこ吹く風。 あからさまな溜め息をついた彼は、 それでも意気揚々と、ソガのウマコがどーとか、クラツクリのトリがこーとか、ウンチクを語り始めた。 コイツが私の彼氏。 ――だと私は思っているけど、コイツが私を彼女だと思っているかどうかが、いまひとつ定かでない。 父親同士が親友で、子供の頃から家族ぐるみのツキアイの幼なじみ。 コイツん家はシングルファザーだったから、我が家はコイツの別宅みたいなモンだった。 私は、……まあちょっと中学の時に横道それて、バイクとクルマのチームなんかに入っちゃってさ、 入れ込みすぎて高校は留年しちゃったけど、 でも周囲の人間が、親以外は遠巻きにして当たらず触らずのなかで、 コイツだけはいつも変わらず、ずっと私にちょっかいかまして、 レースにくっついて来たり、今日みたいに私を連れ回したり、やりたい放題なんだ。
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