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去年コイツが奈良の大学に進んでから、顔を合わせることは減ったけど、
高校留年なんていう乙女にあるまじき失態に、途方に暮れてた一昨年、
コイツが私に言った言葉、今でも鮮明に覚えてる。
「お前には知ってて欲しいんだ、俺の好きなこと。
俺もお前の好きなこと一番に知りたい。好きにはなれなくても、知りたいんだ」
そう言って、すぐ酔うクセにツーリングにくっついて来ては、青い顔して吐いてたよね、あの頃。
まあ私も、ワケわかんないお寺とかにずいぶん連れて行かれたけどさ。
おかげで、もう一回2年生なんて絶対ムリ、って思ってた高校も、なんとか退学せずに通う気力が持てたし、
レースも続けてこられた。
下級生の中にポツンと一人の留年生活は、さすがにしばらくしんどかったけど、最後はソコソコ楽しくなってて、
仲良くなった子のお父さんの紹介で、卒業後はガソリンスタンドで働くことになったし、
レースも続けて、整備士の資格を取る勉強もしよう、って思ってる。
みんなあの時コイツが、私の好きなことを身体を張って認めてくれたから、できたことだ。
あれを告白だと思ってんのは、私だけなのかな……。
だってさ、この春ようやく高校卒業にこぎつけた私を、
お祝いしてやる、って奈良までわざわざ呼び出しといて、コレだよ?
コイツん家からの仕送りを車に積んで、はるばる運転して来てやった私に、コレだよ?
半ばあきらめの境地で、一応訊いてみる。
「でさ、このフランケンシュタインと卒業祝いと、どういう関係があんの?」
「フランケン、って……まあ確かに。
いや、お前に似てるだろ、この飛鳥大仏。
見せてやりたかったんだ」
「はあ!? どこが似てんのさ、コレに!」
「ん? 見りゃわかるじゃん。ツリ目とか、頭と身体のバランス悪いところとか、
見た目いかにも変人」
「……殴られたいのかテメェ」
「ははは、あと、
傷だらけで冷たそうだけど、
変わらずにいつもそこにいてくれるところとか」
「……なに言ってんの?」
コイツが珍しく、目の前にある仏像を差し置いて、私を見てる。
「……なあ。1400年の間、この大仏はここにあって、ずっとこの景色を見てきたんだと思ったら、スゴくないか?」
「? そりゃ、まあ……」
「変わらずにそこにある存在ってさ、それだけでスゴく嬉しくなるよな」
「……」
まるで、私にとってのコイツみたいだ。
そう思った。
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