1400年の傷と1400年の愛と

3/4
前へ
/6ページ
次へ
去年コイツが奈良の大学に進んでから、顔を合わせることは減ったけど、 高校留年なんていう乙女にあるまじき失態に、途方に暮れてた一昨年、 コイツが私に言った言葉、今でも鮮明に覚えてる。 「お前には知ってて欲しいんだ、俺の好きなこと。 俺もお前の好きなこと一番に知りたい。好きにはなれなくても、知りたいんだ」 そう言って、すぐ酔うクセにツーリングにくっついて来ては、青い顔して吐いてたよね、あの頃。 まあ私も、ワケわかんないお寺とかにずいぶん連れて行かれたけどさ。 おかげで、もう一回2年生なんて絶対ムリ、って思ってた高校も、なんとか退学せずに通う気力が持てたし、 レースも続けてこられた。 下級生の中にポツンと一人の留年生活は、さすがにしばらくしんどかったけど、最後はソコソコ楽しくなってて、 仲良くなった子のお父さんの紹介で、卒業後はガソリンスタンドで働くことになったし、 レースも続けて、整備士の資格を取る勉強もしよう、って思ってる。 みんなあの時コイツが、私の好きなことを身体を張って認めてくれたから、できたことだ。 あれを告白だと思ってんのは、私だけなのかな……。 だってさ、この春ようやく高校卒業にこぎつけた私を、 お祝いしてやる、って奈良までわざわざ呼び出しといて、コレだよ? コイツん家からの仕送りを車に積んで、はるばる運転して来てやった私に、コレだよ? 半ばあきらめの境地で、一応訊いてみる。 「でさ、このフランケンシュタインと卒業祝いと、どういう関係があんの?」 「フランケン、って……まあ確かに。 いや、お前に似てるだろ、この飛鳥大仏。 見せてやりたかったんだ」 「はあ!? どこが似てんのさ、コレに!」 「ん? 見りゃわかるじゃん。ツリ目とか、頭と身体のバランス悪いところとか、 見た目いかにも変人」 「……殴られたいのかテメェ」 「ははは、あと、 傷だらけで冷たそうだけど、 変わらずにいつもそこにいてくれるところとか」 「……なに言ってんの?」 コイツが珍しく、目の前にある仏像を差し置いて、私を見てる。 「……なあ。1400年の間、この大仏はここにあって、ずっとこの景色を見てきたんだと思ったら、スゴくないか?」 「? そりゃ、まあ……」 「変わらずにそこにある存在ってさ、それだけでスゴく嬉しくなるよな」 「……」 まるで、私にとってのコイツみたいだ。 そう思った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加