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「壊れても壊れても修理し続けたなんて、
よっぽど地元の人達はこの仏像を大切に思ってたんだよな。
傷つかないように奥にしまい込まれて、それでピカピカに光ってる仏像より、
ずっとスゴくないか?」
「……うん」
「傷だらけで、風変わりな顔してるけど、俺は好きなんだ。
傷はさ、この仏像が大切にされてきた証拠だし、
それはこのお堂がいつも解放されてて、この仏像がいつもみんなを見てて、みんなの日常の心の拠り所だったからだろ?
何年かに一度だけ御開帳~とかって世間から切り離された秘仏より、
日々の生活に溶け込んでる傷だらけのこの大仏が、俺は好きなんだ」
必死な形相して、コイツはなに言ってんの?
普通から外れまくった私でも、そのままでいい、って聞こえるのは、気のせい?
コイツにとっても、私はずっと大切な存在だ、って聞こえるのは、勘違い?
居心地が悪い。なんだか、普通の顔でいられない。
私、今この仏像に負けないくらい、絶対変に歪んだ顔になってる。
「卒業、おめでとう。よく頑張ったよな、お前。誉めてやる!」
「……うん、ありがと」
「俺も頑張った!
バイクの免許、取ったんだ、ほら」
ポケットから出てきた免許証が、自慢げにヒラヒラと振られた。
潤んだ目を隠したくてソッポを向きながらも、
手を伸ばしてヒョイ、と取り上げて見れば。
「……原付じゃん」
「まずは第一歩だろ!」
「原付って、実技試験ないもんね」
「う……」
「実技あったら、自分で運転しながら、酔っちゃうんじゃないの?」
「うるせーな、だから、1400年の道も一歩からなんだよ!
俺だって、お前と同じ風を感じて走ってみたいんだ!……たまには」
「へぇ~……」
ようやく春めいてきた風が、お堂のなかに緩やかに吹き込んでいる。
傷だらけの大仏の口許が、ちょっとだけ、ほころんだように見えた。
Fin.
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