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家の裏の山には桜が咲いていて、春には他の木の緑と桜のピンクが所々に混ざり合ってとても綺麗だった。
その山の真ん中辺りには、うちのばあちゃんのお墓があって、春には花見だって言ってばあちゃんのお墓のそばでお弁当を広げて家族や近所の人達と一緒に歌ったりお酒を飲んだりしていた。
小さい頃からあたしの近くにあるこの桜を、あたしはいつも見上げるように見ていた。小さいながらに溜め息が出るほど綺麗で、夜になると月明かりの薄暗い中にぼんやり浮かぶ桜が怖いのに綺麗で。
物心つくまえから見ているあたしには、その桜がまるであたしだけのためにそこに在るんじゃないかと思っていた。
だってこんなに綺麗でうっとりしてしまうんだから。
「カナちゃん、そんなに桜を見て、まるで恋でもしてるみたいだねぇ。」
「え…?恋?」
近所のおばあちゃんが、お酒の入ったコップを持ちながら言った。
「今いくつだっけ?」
「もうじき9歳だよ!3年生!!」
「そうか…9歳か。」
おばあちゃんは、コップに入ってた残りのお酒をクィっと飲んで言った。
「このへんではな、8歳までは神様の子だって言ってな、悪いもんから守ってくれてるって言われてるんだ。」
「へー…そうなんだ。」
おばあちゃんは、少し酔った目であたしを見た。
「だからな、気を付けなさい。」
「え?」
「9歳からは大人と同じだから、自分のことは自分で守らないと悪いもんがカナちゃんを騙して連れて行くよ。」
「…ふーん?」
あたしが桜を見上げると、おばあちゃんは宴会の中に帰っていった。
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