第一章

3/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「カナ、そろそろ帰ろうか。」 「あ、おかあさん。」 日も落ちてきて、おかあさんはそろそろご飯を作らなくちゃいけない時間だもんね。 「うん。あのね、おばあちゃんが言ってたんだけど…」 あたしはさっきおばあちゃんに聞いたことをおかあさんにはなした。 「あぁ、そうね。昔は子どもが長生きするのが難しかったからそんな言い伝えが残ってるんじゃないかな?」 「ふ~ん?」 おばあちゃんが子どもの時は、まだ医療も発達してなかったから薬草とか神頼みだったって、おかあさんは言った。 「あ、そうだ!カナがまだ小さいとき、3歳くらいかな?夜に抜け出して一人であの桜の木の下にいたことあったのよ。」 「え?そうなの?」 「そうよ~!見つかったのが朝で、しかもそのちょっと前にも子どもの行方不明事件があって神隠しって騒がれて大変だったんだから!」 「へぇ~!?」 ――夜、桜…… 「あ!だからかな?春になると、夜に桜のとこにいる夢を見るの!」 「え?そうだったの?」 「うん、そう。」 あたしは、毎年見る夢を思い出した。 ぬるい風に山の木が擦れてザワザワと音が鳴る。小さなあたしは、一心不乱に桜を目指して歩いていく。桜が何か言ってるようで。 夜の桜が怖いのにきれいなのも、その時見たから知ってたんだ。 「毎年見るからちょっと楽しみなの。」 「だからって、夜に抜け出すのはダメよ!!」 ペロッと舌を出して、「はぁ~い!」と返事をすると、あたしはまたあの桜を振り返った。 今日もまた、夢が見れたら良いなと 思いながら。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!