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「カナ、明日は何が食べたい?」
夜。寝る前におかあさんがあたしに聞いた。
「え?」
「え?って、明日はカナの誕生日じゃない!忘れてたの?」
おかあさんに言われるまで、あたしはすっかりわすれていた。それくらい、あたしは彼に会えなくなるのが嫌だった。それしか頭になかった。
「う~ん、なんでもいい…。」
「え?いつもなら、ケーキにお寿司にってうるさいのに…」
「明日決めるから!今日はもう寝ていい?」
「カナ、最近変よ?」
きっとおかあさんは、娘が恋をしたことに気付いてないんだ。きっと自分の時の事なんか忘れちゃってるだろうし。
「なんでもないよ。おやすみ。」
おかあさんは何か言いたそうにしながら、あたしの部屋から出ていった。
さぁ早く!早く彼に会いに行かなくちゃ。
でもそう思うとなかなか眠れなくて、ソワソワしたあたしは、玄関からそーっと抜け出した。
「はぁっ、はぁっ…」
暗い夜道を、あの桜を目指して駆け抜ける。
―――
ぬるい風が髪を揺らして、木が擦れてザワザワと音が鳴る。
月明かりの薄暗い中にぼんやり浮かぶ桜が怖いのにきれいで、あたしはこれが夢なのか本当なのか分からなくなってきた。ただ一つ分かることは、彼に会いたい。
それだけだった。
―――カナ、
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