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薄暗い桜の前に、薄い着物を着た男の子が見えた。
「…居た!?」
あたしは悲しいような嬉しいような、とにかく涙が出そうになって、思わず彼の元へ走った。
足が軽い。すぐに彼に手が届く。…夢じゃないんだ。
勢い余ってだきついてしまって、慌てて離れて謝った。
「わっ、ご、ごめんなさい!」
「ふふっ…。」
夢では何度も会ってるはずなのに、初めて会ったような気がして恥ずかしくなった。
「いいよ。カナが会いに来てくれたから。」
でも彼はそう言って、あたしに手を伸ばした。
(………わ!)
彼はあたしを引き寄せて抱き締めてくれた。
「約束…」
「へっ!?」
「約束、守ってくれたね。」
約束…?あの頃の?
あたしは、男の子に抱き締められたことなんかなかったから、そのことで頭がフワフワしていた。
『もうすぐ、会えなくなる…』
でもすぐに覚えてない約束のことを思い出して、あたしは彼の肩越しに見える桜を見上げた。
薄暗い闇に桜はうっすらと浮かび、綺麗なはずの桜が、急に怖く見えた。
「大人になったら、来てくれるって約束…。」
「……え…?」
大好きなこの男の子が、急に怖く思えた。
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