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「約束って、もう会えないって約束じゃ…」
「うぅん、違うよ。」
耳に響く声が、夜の静けさをより深いものに変えた。それは遠い昔、聞いたことがある声だった。
「もう夢では会えない。それは、これからずっと一緒にいるからって事だよ。」
「え…?」
「あの時カナが泣くから約束したよね?今すぐは嫌だから、大人になったら来るって。」
………え ?
冷たい声と共に、あたしの肩を抱く彼の手が段々あたしの中に入っていく。
「僕を好きだって言ってくれた。だからカナは来てくれた。」
「や…やだ、はなして!」
――『や…やだ、はなして!』
自分の口からでた言葉に驚いた。あたしは、あの時もこう言ったんだ。
「やだ!帰るっ!かえるー!!」
もがいてもビクともしない体は、段々彼と混ざり合い桜の木に吸い込まれていく。
「大人になったら、って言ったのはカナだ。もう0時を越えたよ。カナはもう大人だ。」
『8歳までは神様の子だ。』
おばあちゃんが言ってた言い伝え。
『悪いもんがカナちゃんを騙して連れて行こうとするよ。』
「やだ!おかあさん!おかぁさあんっ!!」
悪いもんがあたしを騙した!綺麗なものに化けて、あたしを騙したんだ!
あの時の恐怖が甦り、あたしは泣き叫んだ。
「いやぁーー~!嘘つき!嘘つきぃ!!」
「騙してないよ?カナがあの時言ったんだ。」
『大人になったら、来るからぁ!』
あの時、この綺麗な桜はあたしを引っ張って行こうとした。怖くてそう言ったら、桜は約束だよと言って消えたんだ。
「カナの前の子の時は焦って失敗しちゃったからね。だからカナは、今日まで待ってたんだよ…。」
あの時も、桜は綺麗で怖かった。
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