花筏は夜の静寂に……

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吹き荒れた風が枝垂れ桜の枝を揺らした後、風にさらわれたショールを拾い上げて向かって来る人影に、女性は喉を押さえながら声を掛けた。 「これで良かったのですか」 「ふむ。思いを遂げ、成仏しましたな」 そこにはもう青年の姿はない。 手入れもされず、枯れ果てた桜と黒々と蟠る水面。 ひょこひょこと寄って来た、自称、呪い師の男はどこか楽しそうに白い篷髪を揺らす。 「ここで入水自殺しながら、死に切れなかった亡者ですよの。春先に貴女の夢に現れて、悩ます事ももうあるまいて」 手渡されるショールを肩に羽織り直し、女性は疲れ切った笑みを見せる。 「いっそ生きていて、同じ事をしてくれれば良かったのに」 あれは若気の至りだったと思っている。 素敵に見えた人に妻がいると知りながら、どうしても欲しくて手練手管を弄した揚げ句、その優しい人の家庭を壊した。 ゆらゆらと揺れる水面を眺め、それよりも濃い影を落とす枝垂れ桜を見た男は罪無き顔を見せる女へ聞こえぬ様に呟く。 「女の魔性かの、まだ他人に罪を重ねさせる気でおるわ」
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