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女子高の教師になって三年目の春、暖かく、最高に気持ちのいい朝。
横を通り過ぎる制服には、見覚えのない顔もちらほら。
新入生。
春は、新しいものだらけだ。
僕の腕時計も今日から新しいものにした。といっても、僕の場合は時計が壊れてしまったから変えただけなのだが。
高校に慣れた上級生は、春色のセーターに短いスカートで、器用に巻かれた髪をふわふわと揺らしながら、時々僕に会釈したり、話し掛けたりしてくる。
「おはようりっさんー」
「りっさんじゃなくて律先生だろ、おはよう佐伯」
「えっ、りっさん下の名前で呼んでほしいのー!」
「先生って付いてれば何でもいいよ、もう」
「じゃ、りっさん先生ね!」
「えー…」
僕の不満げな声は、笑い声に置いていかれてしまった。新年度も、僕の呼び名はりっさんのようだ。
りっさん。もとい、晒間律。
さらしま、って名字は、ごつくて好きじゃない。親しみにくい感じだから、基本名前で呼んでもらえた方が嬉しい。
なんて、ぼーっとしながら考えていると、いきなり僕のすぐ前から叫び声がした。
「変態!こっち見んなよ!」
はっとして声のした方を見ると、異常にスカートの短い女子。
まだ着慣れていなさそうなブレザーとミスマッチな長さだ。上だけ新入生。みたいな。
「おっさん、女のスカート見るの趣味なの?最悪。」
と、彼女の見ている相手は僕。ついでに、周りの生徒が見ているのも、僕。
「おっさんじゃなくて、先生。うちの高校でしょ、君」
「うちの…?え、おっさんあの高校の先生なの?」
彼女の指差す先には僕の目的地。いや、僕と彼女とその他大勢の生徒の目的地。
「そう言ってるだろ?入学式では最低限のマナーは守るようにな。学校着いたらその短すぎるスカートどうにかする事」
「やっぱ見てたんじゃん、エロ教師」
「見る理由がないからそれは間違いだ」
「そーだ、名前は?」
「律。律先生と呼んでくれればいい。」
「律先生にスカート見られたーって、新しい担任に言ってやるから!」
「あ、おい、見てないっての!」
なんて言葉は彼女には聞こえなかったようで、走り去ってしまった。
せっかくの気持ちの良い朝が、面倒な朝に変わりそうな予感。
面倒事のきっかけを作ったのは、スカートの長さがギリギリな、君だった。
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