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苛立ちが、言葉に乗る。
「遺書。これどう説明すんの?無理だろ」
「それをこれから検証するんだ」
「本人が書いた以外あり得ないから。時間の無──」
無駄、と最後まで言い終わる前に、扉が開いた。胸中に残った苛立ちに悶々とするが、口をつぐむ。
扉を開けたのは理央さんではなかった。四十代の後半ぐらいの女性。目尻に若干皺が目立つが、それでも綺麗だと意識させられる目鼻立ち。
どことなく理央さんに似ているし、話の流れから、彼女の母親で間違いない。理央さんはその人の後ろにいる。申し訳なさそうに。
「あなたたちが、幸太の……?」
突然の息子の死に、脳が停止しているのか、口調にも表情にも正気が宿ってない。
憔悴と言うより、言い方は悪いが、生きながら死んでいるというか。やはり自殺は、家族をも殺すのだ。扉の前に集まっている俺達三人を見回す動作も、ひどく緩慢だ。
「突然のご訪問で申し訳ありません。弟が幸太君と友達でして。自殺なんてするとは思えないと言ってきかず。どうしても部屋や、遺書などを拝見できたらと思い」
「理央から聞きました」
遮った。それはまるで、聞きたくないという意思表示のよう。
「友達だからと仰いますけど、あれこれと詮索するのは、友達のすることじゃないんじゃありません?」
「……」
水瀬幸太の死は、昨日の出来事だ。正確にするなら、まだ二十四時間はたっていない、十七、八時間ぐらいだ。
たったそれだけの短い時間で、家族の死から立ち直るのなんて不可能だ。警察にも色々と調べられた。遺書が見つかった。
だから自殺と断定された。なのにそれは違うと異議を唱える人達がいて、「じゃあ調べて下さい」と、諸手を上げて賛同を示す家族がいるとは思えない。
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