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俺が納得できる答えを、俺が勝手に作り出してるだけ。証拠も、証明もないんだから、勘違いだったで終わる確率の方が高い。
「あとね」
一人で勝手な推測を頭の中で並べていると、日奈子がぽつりと囁くように吐き出した。
「スケッチブックがあったの」
「スケッチブック?」
思考を断ち切れるなら何でもいいや、と俺は聞こえた言葉を反復した。
「そ。救急隊の人が、男の子をストレッチャーに乗せた後に、下敷きになってぐちゃぐちゃにもなってたスケッチブックがあったの。何でだろ?」
「……もしかして、憔悴してたんじゃなくて、それについて考えてたの?」
「うん。何でだろうなぁって」
「はぁ。まったく……」
「何?」
「なんでもない」
人がどれだけ心配したと思ってんだ、的外れな励ましをした自分が滑稽じゃないか。損した気分だ。だけど、日奈子自身、それほど苦痛を感じていなかったことに安堵する。
「で、何でだと思う?」
「委ねるの?」
「だって分かんないんだもん」
「俺だって同じ……だと思うけど、考えるだけ考えてみるよ」
放棄しようとしたのに睨まれた。仕方なく考えてみる。でも、結局日奈子も、俺と同じなのだろう。
正解が欲しいのではなく、自分が納得できる答えが欲しいのだ。
「スケッチブックって、絵を描いたり字を描いたり──つまり何かを描くための紙の束だから……」
「真剣に考えてる?」
「考えてるよ」
見抜かれた、やる気のなさを。けどそれは、俺は、今に始まったことではないから、日奈子は追及してこない。
許容してくれることに甘えて、俺は気持ち半ばの言葉を続ける。
「下敷きになってたってことは……うん。これしか考えられない」
「何々?」
「偶然──痛っ」
直後肩を殴られた。地味に強い、痛い。どうやら納得してくれなかったようだ。当たり前か。
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