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「もっとちゃんと」 「って言われても、他に浮かばないけど?」 「先入観があるからでしょ」 「先入観?……ああ」 自殺。これを前提に考えるなってことか。けど、彼が六階より上から落ちただろうことは判断できたが、正確な位置が分からないんだから、仕方ないじゃないか。 七階、八階、九階、そして屋上。事故、自殺、他殺。マンションからの飛び下りで万人の認識は自殺だろう。 わざわざ転落させるという重労働を犯人が取るわけないし、ベランダから転落、なんて事故も住み慣れたら起こるわけがない。 バランスを崩したら別だが、ちゃっとやそっとじゃ崩れない。今日は別段、風が強い訳でもないし、地震が起きた、なんてこともない。 思考すればするほど、自殺がしっくりくる。きてしまう。もし彼が想像通りなら、理由も思い当たるし。 「ごめん、捨てれない。他の可能性を検証できない」 んぅー、と声になってない抗議の声は聞き流す。 「スケッチブックが下敷きになってたからって殺人犯が出てくる可能性は低いよ。事故にしても、ベランダか屋上で何かを描いてたら細心の注意は払うと思うし」 「でも、自殺だとしたらおかしいでしょ。何でスケッチブックがあんの?」 「まあ、言われてみれば確かに」 これから死のうとしてる人間がスケッチブックを抱いて落ちる?いや、下敷きになっていたということは、先にスケッチブックだけが落ちたということ。 そして、その上目掛けて、飛び下りた……。無理、なんじゃないか。人間なら重力で真っ逆さまだが、スケッチブックは──紙の束は風の抵抗を受ける。 先に落としても、開いた束が風に乗って、あらぬ方向へと流されてしまうだろう。 適当な位置に落ちた場所目掛けて飛び下りたのか?それとも狙い通りの所にまで落ちるまで続けたのか。ベランダに落ちていたらどうしてた?重石でも付けてた? そんなことまでする必要ある物なのか。思考し、これだと思う結論を導き出せた。 「如月。これしか考えられない」 「それさっき聞いた──まさか!」 「偶然」 身構えたが、拳は飛んで来なかった。代わりに、蔑みの目を向けられる。 「……ごめん」 「もういい。悠馬さんに訊く」 「同じ答えだと思うよ」 自己嫌悪。自分から突き放したことだけど、やっぱり俺は、兄貴より劣ってる。
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