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家のチャイムが鳴った。リビングの窓の向こう、外は早朝から──いや、深夜辺りから振りだした雨が目に見えるほど、耳にできるほど降っている。 時刻は午前十時十五分。朝とも昼ともつかぬ時間の、雨の中の訪問者。 何かの勧誘か、と借りていたDVDを一時停止させて、腰を上げる。二階から動く気配、扉を開閉させる音はなし。 母さんは仕事に行った、一階には俺だけ、必然的に俺が対応しなければならない。 扉ぐらいは開けて様子は窺えよ、困ったやつだな。二階から目を外し、玄関まで行き覗き穴を覗く。 赤い傘を差している、女性。年齢は俺と同じくらいか。勧誘──ではないと一目で分かる。 手に持ってるのは傘だけで、鞄の紐すら見当たらない。ほとんど手ぶらだ。 決定的なのは、表情。助けを求めているかのような、悲しみに暮れている表情。 訪問者に対する義理ではなく、放っておけない男の性として、俺は鍵を外した。美人に部類する顔立ちだから、が理由ではないと頭の片隅で言い訳する。 「おっ──」 「速水君、助けて」 待ちきれないとばかりに、開けた扉の隙間から身を滑り込ませてきた積極的な行動に目を丸くする。 何で名前を、という疑問は瞬時に消える。表札に出ているし、それ以前に彼女とは面識があったから。 知り合いだった。正確にはクラスメイトだった。声と、間近で感じる雰囲気、特徴的な泣き黒子で、懐かしい記憶が思い起こされる。 「確か……水瀬さん、だっけ?」 フルネームは確か水瀬理央。高一と高二で同じクラスだった。特に親しかったという訳ではないが、避けていたという訳でもない。 ただのクラスメイト、それ以上でも以下でもない。
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