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七月。夏の暑さが日に日に増していく気候で、それに合わせ露出が多くなっていく。
制服が定められている高校では、一ヶ月前から、季節を先取りするかのように、冬服のブレザーから夏服のポロシャツだ。
一ヶ月前はぽつ、ぽつとしか目立たなかった白い服も、半月もしたら校内全域が白一色で染まった。
そしてそれから一ヶ月後の現在、七月に入って数日した高校は、色めき立った学生で満たされる。二週間後に待つ、長期の休みに興奮して。
夏休みなんてのは小学校中学校、そして高校でも変わらない。授業というしがらみから解放されるのは待ち遠しい。
俺も、その内の一人だ。高校生での、二回目の夏休み。小、中と違い、短期で働いてお金を貯めることすらできる期間。
待ち遠しい。大半の生徒は、退屈な授業からの、一時の逃避を楽しむのだろうが、俺は違う。
高校から、正確には成績から一時でも逃れられることが、至上の喜びなのだ。期待されているのが、精神的に辛い。
原因ははっきりしている。兄貴のせいだ。
四年前に、俺が今通ってる高校を卒業した兄貴は、現在大学三回生。高校時代も現在も、小学校時代も中学校時代も、成績が良かった。
テストの点数は常に、全教科九十前後。百点は取ったことがない。しかし、俺は知っている。兄貴があえて、そこを狙っていたことを。
自分が興味あることしか本気で取り組まないのが、兄貴の性格だ。本気じゃないのに、九十前後。
楽観的に生きる兄貴が、頭脳明晰な兄貴が嫌いだ。そう感じてる自分も嫌いだ。
何かと比べられ、劣っていると意識させられてしまうのが耐えられない。教師は生徒なんか見ちゃいない。
それを実感するのに時間はかからなかった。生徒思いを演じる教師から、退屈な授業から、気が病むほど苦しい成績から一ヶ月近くも逃げれるのは、至福の一時だ。
普段はアルバイトを許してくれない母親も、夏休みの期間だけは許可してくれている。
だから働き、家に居る時間を──兄貴と居る時間を減らすことができる。一石二鳥な期間が、待ち遠しくてたまらない。
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