遺書はお大事に

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俺は咄嗟に、第一校舎へと身を躍らせた。姿を隠す──何気ない、通りがかりの一生徒を装う。 直後、校舎に入ってきたのは四人。先頭は、髪を明るい金髪に染め、耳にはピアスの男。 その後ろを、金魚のふんよろしく目つきの悪い三人がついていく。 高校(ここ)は、馬鹿では入学できない偏差値を誇っていることで有名な進学校だ。 なのに柄の悪い奴らが四人も──知らぬ間に偏差値が落ちたのか、裏口入学か。それとも、入学後に馬鹿になったのか。髪を染めること自体は校則違反ではないが、それでも派手な金は許容範囲を越えている。 当然のように合格し通ってる身としては、先行きが不安になる。一応は誇りに思っているのだから、その名は汚さないでもらいたい。 と、馬鹿に対しての憤りは、弱々しい足取りで歩く男の姿で消えた。はたき落としたのだろうが、それでも落ちていない土汚れを制服に付着させ、右腕を擦り、唇からは僅かな血をにじませている、気弱そうな男。 イジメの被害者だと一目で分かる。夏服の、白いポロシャツから、汚れや赤く腫れ上がった腕が目立ってしまっている。 足も痛むのか、覚束ない足取りだ。目が合った。 ──逸らした。俺が。 イジメに関わるなんてのはまっぴらごめんだ。被害に遭ってる奴を助けて、何の得がある。 標的が俺にも向けられるだけだ。正義感なんか振りかざしても、損を生むだけ。 正義なんてのは、持っていても邪魔で不要な精神だ。俺のモットーは、一日を平凡に過ごすこと、だ。 わざわざ火中に飛び込むような真似、する価値がない。 満身創痍の男が、横をよぎる。チクッと胸を刺した何かは、無視した。 他の生徒も、気遣わない話しかけない目も合わせない。皆、共通の認識。暗黙の了解らしきものが備わっている。 関わらないことは、当事者にとっては、無視というイジメの一種になってることも知らないで。 もちろん、俺もそれに加担してしまっている。
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