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どんよりと曇った空模様を映したかのように、俺の心は憂鬱だった。理由ははっきりしている。
二日後に迫った、新学期のせいだ。夏休みというのは残酷だ。学生に長い休暇を与えるだけ与えて、急に手のひらを返すように、また登校させる。
それを毎年、理解させられる。前半は歓喜し、中盤はまだあると余裕でいさせ、後半で一気に現実へと引き戻す。
登下校、クラス、友達、教師、そして成績。学校というしがらみからの解放は一時的だったと意識すると、天国から地獄へと様変わりする。
残酷で、気が滅入る数日。たったの数日が、永遠に来なければいいとさえ、願わずにはいられない。
それでも日は沈み、月が煌々と存在を誇り、焼けつくほどの熱さを放つ太陽が姿を見せて、憂鬱に拍車をかける。
前半の歓喜と中盤の余裕は何だったのか、どこにいったのか問い詰めたいほど、嫌悪感に捕われる。
ただし、俺がもっとも暗澹を感じてるのは、成績。過度な期待を持たれても、俺はたぶんクラスでは二、三番、全体としては十位前後を保つのが限界だ。
兄貴は越せない──越したくないのかもしれない。理由は分からない。ただ本能が、拒絶の意を示しているのだ。
平凡に生きるためには、頭脳明晰な兄貴とすら、関わりを絶った方が無難だと、脳の片隅が求めてる。
だから、家に居ないために、バイトを始めた。と言っても夏休みだけの短い期間、それも伯父がマスターを務める喫茶店でだ。
母方のお兄さんで、名前は辰也さん。マスターらしく口髭を蓄えた、厳格で寡黙な人で、その人柄も、彼が淹れるコーヒーも、店の佇まいも、俺は好きだった。
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