12章 主従の契約(前編)

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・ 「時期に──…ルナ様が旦那様の花嫁となる婚儀の時が参ります。旦那様も昨夜からその準備に入っていらっしゃる」 「──…っ」 「どうかルナ様にこのドレスを着ていただきたく、娘が亡くなってからずっと足が遠退いていたこの部屋の鍵を、今日やっと……私は開ける事が出来ました」 「亡くなっ……」 「ああ、ご安心を…」 一瞬驚いたルナの誤解を説くようにモーリスは言葉を遮る。 「娘はとても幸せな結婚をし、裕福な家庭に恵まれて大往生の末、静かに永眠を迎えました」 「…そ…そうなの」 ルナはホッと小さな胸を撫でおろす。 「モーリスがあまりにも寂しそうな顔をするから…てっきり…」 ルナの言葉にモーリスは申し訳無さそうに笑った。 「寂しいのはやはり、私よりもずっと早く歳を取り、人生を駈けてしまったことで御座いますかな…」 モーリスはそう言って遠い目を向ける。 「魔物の生命の時の刻みと人間とではあまりにも違い過ぎます──…私が目にした彼女の人生…それは走馬灯よりも早く、思い出を噛み締める間も御座いませんでしたから…」 ルナはモーリスの言葉にあ、と声を漏らして俯いた。
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