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「時期に──…ルナ様が旦那様の花嫁となる婚儀の時が参ります。旦那様も昨夜からその準備に入っていらっしゃる」
「──…っ」
「どうかルナ様にこのドレスを着ていただきたく、娘が亡くなってからずっと足が遠退いていたこの部屋の鍵を、今日やっと……私は開ける事が出来ました」
「亡くなっ……」
「ああ、ご安心を…」
一瞬驚いたルナの誤解を説くようにモーリスは言葉を遮る。
「娘はとても幸せな結婚をし、裕福な家庭に恵まれて大往生の末、静かに永眠を迎えました」
「…そ…そうなの」
ルナはホッと小さな胸を撫でおろす。
「モーリスがあまりにも寂しそうな顔をするから…てっきり…」
ルナの言葉にモーリスは申し訳無さそうに笑った。
「寂しいのはやはり、私よりもずっと早く歳を取り、人生を駈けてしまったことで御座いますかな…」
モーリスはそう言って遠い目を向ける。
「魔物の生命の時の刻みと人間とではあまりにも違い過ぎます──…私が目にした彼女の人生…それは走馬灯よりも早く、思い出を噛み締める間も御座いませんでしたから…」
ルナはモーリスの言葉にあ、と声を漏らして俯いた。
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