12章 主従の契約(前編)

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・ ルナは執務室の扉の前で顎に手を充てたまま暫し考え込んだ。 「きゃっ!?」 途端に目の前の扉が勝手に開く── 「佇んで居ないで入ったらどうだ?」 部屋の奥からそう低い声が響いた。 グレイに声を掛けられて驚いた胸を押さえながらルナは言われた通り室内へと入る。 初めて訪れた部屋。グレイの執務室── ルナは壁に並んだ高い本棚を見上げながら中を見渡した。 「それか?モーリスが寄越したのは……」 離れた場所でもうルナが何をしにきたか知っているような口振りで話し掛けてくる。 奥の本棚の側で書物を手にしたグレイはその本を閉じると卓上に静かに置いてルナへと歩み寄った。 「ふ…幼稚なお前には大人過ぎるな…」 「なっ!?」 ルナの手から二枚のドレスを取るとそれを眺めながらグレイは口端で笑い、ルナを貶(けな)した 一瞬怒ったルナにグレイはパチンと指を鳴らして二枚のドレスを重ねて着せる。 大きくて大人過ぎるデザインのドレスの中に、ルナの華奢な躰はストンとくるまれていた。
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