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「ルナ様──
熱湯をお持ちの時は空想に浸らぬよう気を着けてくださいませ…」
「ハイ…っ…」
小さく詫びるルナの後に居間から思いっきり吹き出した声が聞こえてくる。
「──!」
そうだ、あたしの心はあの人に読まれてしまう──
今更思い出しても遅かった。
ルナは真っ赤になりながら用意できたポットを手にして俯いて席に着く。
ルナから顔は見えないが、新聞を持つグレイの手は明らかに震えていた──
「旦那様、お茶の御代わりは如何いたしましょう?」
「ああ、もらっておく…っ」
笑いを堪えたお陰でグレイは言葉を短く切る。
ルナは今の状況にいたたまれず居間を飛び出していった。
「……おや?お茶は要らなかったのでございましょうか?」
「くくっ…さあな。飲みたい時に飲むだろう?」
含み笑う主人を見て首を傾げる。
モーリスはルナの出ていった扉を見つめるとグレイに視線を向けた。
「そういえば旦那様」
「なんだ」
「昨夜、塔の方へ足をお運びになられましたか?」
「ああ」
「左様でございますか…ではそろそろ──ということでございますな…」
グレイは新聞をたたむとカップを口に運んだ。
「ああ、早めに済ませておいた方がよかろう──次の満月に間に合うようにしておいてくれ…」
「かしこまりました」
飲んだカップをテーブルに戻すとグレイは席を立った。
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