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「さっきの煙ですよ」松樹がチョーカーの男性を見据えた。「あの人は煙が出た時、爆発だって言ったんです。ですけど、思い出してください。ここは炭火焼肉のお店なんですよ? ガスなんて使ってません。爆発しますか?」
と言って、カウンターとテーブルを指さした。
四つの七輪は今も激しく燃えている。
確かにと、サラリーマンとカップルは声を出して頷いた。
そんな気にもならないのだろう、壁際にいた若い女性は小さなバッグを抱えるようにして震えている。
「爆発って叫んだのは、パニックを煽るため。煙に気をとられたあなたのバッグを奪って逃げるためです。このタブレットが目的なんですよ」
サラリーマンは松樹から受け取ったバッグの中を確認して安堵のため息をつくと、両手で大事そうに抱えた。
「ここに入っているのは大手スポーツクラブの移行データです。暗号化はしてますが、クレジットカードの番号も入っていて……これを紛失したら数十億単位の損害賠償だ……」
「きっとクレジットカードのデータを盗もうとしてたんです。だから騒ぎを起こして、似たようなバッグをばらまいた。あのボストンバッグに入れてチャンスをうかがってたんです」
チョーカーの男性は、松樹を睨み付けていた。
「勘違いしただけだろ。ただの言いがかりじゃねえか。実際に煙が出たんだからよ」
「言いがかり? とんでもないわ」
「……話は聞いてやる。だからそこを閉めろよ」
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