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松樹が床に落ちていたボストンバッグのほうへ向かって足を踏み出したその時。
「……っ!」
チョーカーの男性は突然駆けだしたかと思うと、壁際にいた若い女性の体を掴んで背中に周り、
「やれるもんならやってみろよ」
ポケットから出したナイフを首筋に当てた。
突然のことに驚いたのか、人質となった若い女性は声も出せないまま目を見開き震えている。
「応援なんか呼んでみろ。こいつを殺す。警察官が女を見殺しにしていいのか?」
まずいことになったと、杉元は思った。
「妙な動きをしても刺す」
カップルの男性がテーブルの上にあったコップを手に取ろうとしたのを見て、チョーカーの男性はそう釘を差した。
どうすべきか。
スマホを操作できさえすれば、メッセンジャーアプリを使って応援を呼ぶこともできる。
引き戸を少しでも開きさえすれば、視線で外の誰かに助けを呼ぶこともできる。
だが、動けなかった。
とりあえず時間を引き延ばして探るしかない。
そう考えた杉元は深呼吸してから、チョーカーの男性を見つめた。
「どうか落ち着いてください。松樹さんの言う通り、あなたは怪しい状態にあるかもしれません。しかし、まだ何か明確に犯罪を犯したわけでもないのです」
「だからどうした」
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