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「その子を傷つけた場合、傷害罪という立派な犯罪になります。そうなってしまえば、元も子もないのではないでしょうか」
チョーカーの男性が唸る。
相手を刺激しないよう、杉元は額に浮かんできた汗をゆっくりとぬぐった。
見れば、松樹も顔に汗をかいてきている。
「どうか落ち着いてください。その子を解放してもらえませんか? 僕が人質になります」
チョーカーの男性は、ゆっくりと考えてから首を横に振った。
「断る。お前も警察官なら鍛えてるはずだ」
「警察官ですが、自分の所属は交通課です。鍛えてもおりませんし、業務はデスクワークなのです」
「嘘をつけ。お前の体を押してもびくともしなかった。何かしてるだろう」
「いえ、何もしておりません」
「信じるはずねえだろ」
彼も汗をかきはじめている。
暑い。それぞれのテーブルにある七輪の火が点いたままのせいだろう。
杉元は次の言葉が続かなかった。
これ以上引き延ばしても、その先の展開が読めない。
犯人はどうしたいのだろうか。いや、逃げたいのは分かっている。だが、唯一の出入口を杉元が塞いでいる以上、逃げることはできないのだ。
そこで気づいた。
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