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「よく聞いてください。いずれこの異常事態に気づいた誰かが警察に通報して、店は包囲されるでしょう。その前に彼女を離していただけませんか? ここで時間を引き延ばしても無駄なのです」
その答えに、チョーカーの男性はニヤリと笑った。
「時間を引き延ばしても無駄か? 本当か?」
「体力を消耗するだけなのです。よく考えられなくなってしまい……意図せず人を傷つけかねません。そうなれば罪はどんどん重くなってしまうのです」
「ふ……ふはは」
チョーカーの男性が力なく笑う。
まだそれほど時間は経っていないはずだが、彼の顔には徐々に精気がなくなっているように見受けられた。
物音がして振り向く。
すると、カップルの女性が青ざめた顔で椅子に座り込んでいた。
松樹もテーブルに手をついて、息を荒くしている。
どういうことだろうか。
気づけば、杉元自身もかなり体力を消耗していた。
頭がくらくらし、全身に力が入らなくなってきている。
ひどい疲れ。
杉元は目を見開いた。
「ま……まずい」
転瞬。
彼は力なく床へと崩れ落ちた。
見ると、松樹もテーブルへもたれかかるようにして倒れ込んでいる。
カップルは寄り添うようにして座り込んでしまった。
カウンターにいたサラリーマンは目を閉じており、その向こう側にいたはずのスタッフも姿は見えなかった。
「ふはは」
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