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「あ、伺ってます。さっき店長から電話があって、仕入れ先で渋滞にハマったらしくて、あと一時間ぐらいで着くって言ってました。なので、お食事しながら待ってもらえればと」
「そうだったんですね。それじゃ、そうさせてもらいます」
そういうこともよくあるのだろう。
松樹は案内されたテーブルに腰を下ろして荷物を傍らに置くと、普通に料理を選び始めた。
その向かいに座った杉元もカードケースのメニューを手に、どんな肉があるのだろうとその文字に目を向けた瞬間。
「うわ……」
と、思わず呟いてしまった。
ただのカルビやレバーと書かれているものは一切なかったからだ。
松阪牛、米澤牛、近江牛といったブランド名が必ずついており、店の外見からは想像もつかない値段がついていた。
「びっくりしたでしょ?」松樹がニヤリと笑う。「千円も出せばお腹いっぱいになるこの並びで、この値段の焼き肉で勝負するってお店出したのよ。夜は行列もできるぐらいになっててね、そこらへんを聞きたくて来たの。ま、一皿ぐらいはおごってあげるから」
「それは助かりますが……」
こんな高い物を食べる予定もなかったため、財布に数千円しか入れてこなかった杉元は、しばらく悩むことになった。
カルビ一皿で終わってしまうのも悲しいが、さりとてクレジットカードの力を借りたくはない。
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