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「この高架下でA5クラスのいいお肉をちょこっとだけ食べて家に帰る、そんなお客さんをターゲットにしたのよ。ちょい飲みの豪華版ね。おいしいものを少しだけ。今の時代はそういうのが受けるのよ」
そう言えば、カウンターのサラリーマンもテーブル席のどこも、注文している肉の皿は二皿ぐらいだった。
しかし、どの顔を見ても笑顔が浮かんでいる。
そういう風潮は世代を問わないらしい。店のドアが開いて入ってきたのは、高校生ぐらいの若い女性だった。
あっと小さく声を出した松樹が軽く会釈する。それは、先ほど裏口でスタッフと勘違いをして声をかけた女性だった。
常連なのだろうか、店員の案内を待たずにテーブル席へと向かって椅子に腰を下ろす。
そして高そうな肉を注文すると、最初に届いたビールを半分ほど飲み干して満足そうに頷いた。
先ほどの話から考えると、ここにいる全委員はこれから帰宅するのだろう。
家に帰って現実に引き戻される前のひとときを、おいしいものを食べることで過ごしているのだ。
杉元と松樹も、ここでの食事が終わったら家で明日からの仕事に向けて準備をしなくてはならない。
焼ける肉の匂いが店内に満ちていく。
注文が落ち着いたのだろう、二人いる女性店員もカウンターの中でお喋りをしていた。
少し煙いこの天国を満喫しようと頭を切り換えた杉元は、ビールを頼んでいいか松樹に聞こうと口を開き描けたその時。
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