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突如として、店内を白い煙が漂い始めた。
それは瞬く間に膝から下に満ちていく。
「ん?」
誰もがおかしいと宙に目を向けると、さらに大量の白い煙が下から吹き上げるようにして、視界を奪っていった。
「ば……爆発だ!」
男性の叫び声が轟いた。
女性の小さな悲鳴が上がる。
テーブルと椅子の動く音があちこちから聞こえだした。
松樹が叫ぶ。
「入口に行って! 誰も通さないでね!」
「は、はあ?」
「いいから早く!」
肩を押されながら立ち上がった杉元は、訳も分からず松樹の言葉に従って店の入口にある引き戸に向かって賭けだした。
誰かとぶつかる。
自分のほうが体が大きかったのか、相手は倒れてしまったらしい。足下で物音がした。
「誰も通さないでよ!」
その言葉を裏付けるように、倒れた誰かが煙の中で杉元の体を押しのけようとしている。
「行かしちゃダメよ!」
松樹の声が近づいてきて、不意に体の後ろから引き戸の開く音が聞こえてきた。
白い煙が徐々に晴れていく。
開けた視界に映っていたのは、異様な光景だった。
カウンターにいた男性はぽかんと口を開けながらあたりを見回している。テーブル席のカップルはお互いの体を抱きしめ合いながら、不安そうな目で見つめ合っていた。
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