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最後に入ってきた女性は、おびえた表情で壁に背を向けて息を飲んでいる。
「な……?」
足下にいたのは、チョーカーを着けた三十代ぐらいの男性だった。
その近くには、全く同じ形をした黒いバッグが五つほど散乱している。
「な……何が起きたのですか?」
すると、男性は怒りをあらわにしながらバッグの一つを手に取り、杉元の体を押した。
「だから火事だって言ってんだろ! いいからどけよ! 死にてえのか!」
「しかし……」
杉元がちらりと背後の松樹を見やる。
彼女は首を横に振った。
「どこが燃えてんの? ってか、あんたの仕業じゃない。何が目的なの?」
「何だよ、目的って! 俺は命が惜しいだけだ!」
「違うわ。あんたは何かを盗もうとしたの。それ以上騒いでみなさい。この人は警察官なのよ。連れてかれたいの?」
と、松樹が啖呵を切った。
チョーカーの男性がぐっと息を飲む。
「俺がいったい何を盗もうってんだ? 俺は何もしてねえだろ!」
「嘘よ。こんな目くらましまでして。何が目的なの!」
睨み合う二人。
杉元はチョーカーの男性を逃がさないようその両肩を掴みながら考えた。
どうして松樹は、先程の煙が火事ではないと気づいたのだろうか――と。
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