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「はい」
奈月が返事をする。
彼女のファーストネームか。変わった名前だ。何故か『桜が舞う』という漢字が浮かんだ。
会崎がちょいちょいと指を動かし、こっちにおいでのジェスチャーをする。
呼ばれた奈月が素直に赴くと、寸刻の内緒話の後、
彼女はとんでもないことを言い出した。
「ーーえ、汐野様が怒った理由が分かった?」
「What!?」
素っ頓狂な展開に、素っ頓狂な声が出た。横にいるカイルが飛び上がる。
父が激怒した理由が、分かった?
(娘の私や当人のカイルが分からないのに、何でこの人が……?)
このケーキ屋に会ってから、驚くことばかりだ。
会崎はこちらに視線を投げかけて、深く頷いた。
「十中八九、間違いないと思います」
真っ正面からその美貌を目にしたみちるは、会崎の瞳がカイルよりも色が薄いことに気づいた。
そのカイルも会崎を凝視し、美形っぷりに「Wow!」と言わんばかりに刮目している。
「教えて、くれる?」
「そうしても良いのですが、……あまり好手とは言えません。誤解は解けても話が拗れてしまう可能性があります」
「どういうこと?」
奥歯に物が挟まった物言いに、首を傾げる。
「円滑に事を運ぶためにも、第三者を挟んだ方がよいと思います。
ーーというわけで」
会崎は傍らの奈月に、さくら色の色鉛筆を向けて、きっぱりと命令した。
「奈月、汐野様の誤解を解きに行ってきなさい」
素っ頓狂な声は、今度は奈月から上がった。
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