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三十分後。
みちるとカイルは、桜並木の影に隠れながら忍び足でコソコソ移動していた。
目線の先には奈月がいる。彼女は重箱を下げ、ぎこちない足どりで歩いていた。
(ほんとにうまく行くのかな……?)
みちるは依然、不安だった。
突然の任命に対し、奈月は当惑しつつも了承した。本来なら関係ないはずなのに、本当に優しい子である。
会崎は、奈月からもらった懐紙に『父が怒った理由』と『言うべき台詞』をメモして渡した。
ついでに『あるもの』を買ってくるよう言ったようだがーーそれが何なのか、みちるたちは知らされなかった。
ともあれ、すべては奈月に託されたのだ。
がんばって、と長い髪が揺れる彼女の背中にエールを送っていると、やがて公園奥の休憩所、東屋にいる両親に辿りついた。
奈月にはスピーカー通話中の携帯電話を持たせてある。これで会話が拾えるはずだ。
まずは偶然を装い、両親に接触する手筈だった。
奈月は両親に駆け寄り、ひっくり返った声で言った。
「し、汐野様! こんばんは!」
(ものっそい不自然だーー!)
今は昼だしさっき会ったし。優しくていい子だが、どうも不器用なタイプらしい。
みちるは頭を抱えたが、母は、
「あらケーキ屋さん。こんにちは」
まったく意に介さなかった。さすがお母さん、おっとりな性格日本代表。
父は不貞腐れきっていて、挨拶を返しもしない。みちるはちょっとムッとした。
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