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思わずカイルの顔を見やる。彼は奈月の持つ花を見て、「Pretty pink」と口笛を吹いた。
奈月の穏やかな声が続ける。彼女はメモをもう見ていなかった。
「『優しい』『美しい』『素晴らしい』、
『賢い』や『尊敬している』。
……きっとそういう気持ちを込めて、何よりご両親に伝えたくて、この言い回しをお選びになったんだと思います」
煎茶のぬくもりや桜もちの甘みのように、奈月の言葉はみちるの心に、じんわりと染み込んでいった。
(……なんてバカなの)
みちるは木の影から出て、ずんずんと大股歩きで両親と奈月の元に向かった。カイルもついてきた。
口元を引き締めて父を見据える。
父は、この上なくばつが悪そうだった。
「ばっかじゃないの、お父さん」
普段こんな口の利き方をすれば、生意気だと叱られる。
けれど、父は言い返さなかった。
そう。本当にバカだ。
早とちり。すれ違い。勉強不足による誤解。
なんてバカバカしい。
「でも、……カイルに英語で私のことを尋ねたお父さんも、歩み寄ろうって努力はしてくれたのよね」
妙な茶番が起こってしまったが、それだけは認めなくてはならない。
分かってしまえば何てことない、しょうもないすれ違い。
そんなもので喧嘩をしたり仲違いになったり、……別離するなんて、バカバカしい。
(……ま、今日の夕食時にでも兄さんや姉さんに愚痴らせてもらおう)
それで笑い話にするのだ。今日だけでなく、これからもずっと。
やれやれ、という気持ちを込めて、みちるは笑った。
事の真相をカイルに話すと、絶句した。ごめんね日本語と父がややこしいせいで。
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