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父とカイルが、日本語と英語でしっちゃかめっちゃかに会話していると、奈月がこっそりとみちるの袖をつついた。
「汐野様。私はこれで失礼いたします」
と、携帯電話を返される。
「あ、ごめんね。……色々、ありがとう」
いいえ、と奈月はゆるりと首を振った。
「ご結婚、誠におめでとうございます。謹んで言祝ぎ申し上げます」
恭しく差し出されたのは、撫子の花を懐紙で巻いた、素朴で愛らしい花束だった。
「ありがとう……」
有難いほどの心配り。花束ごと素直に受け取り、みちるは思った。
(この心遣いと言葉遣いこそ、『大和撫子』、なんだろうな)
去りゆく奈月に、みちるは万感の想いを込めて言った。
「近いうちに、お店に行くわね。彼、アップルパイが大好物なの。アメリカ風のものはある?」
「はい、もちろん。いつでもご来店をお待ちしております!」
軽やかな足どりで〈PoMMe〉の店員は去っていった。
しばらく遠ざかる後ろ姿を見送っていると、……ふと、疑問が生まれた。
たくさんの撫子の花。
会崎が用意しろと言ったのは、たぶんこれのことなのだろうが。
「撫子って、今の時期に咲く花だっけ……」
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