2人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
みちるは大学三年生。
県外の外語大学に在籍しているが、一年ほど前から休学し、アメリカにワーキングホリデーをしに単身渡米していた。
そこで、アルバイト先で知り合ったアメリカ人のカイル=レナードと恋に落ちた。
二人は早々に結婚を決め、今日はその挨拶のために帰国・訪日した。
みちるは高校卒業ぶりに実家に帰ってきたのである。
何よりも先に桜が見たかった、そして婚約者に見せたかったので、実家に直接向かわずに、両親と公園で待ち合わせをした。
残念なことに時期を読み間違え、花は一分咲きだったがーーまあ良い。あくまで本題は『結婚の挨拶』なのである。
「お父さん、相変わらず頑固そうね」
熱々の缶コーヒーを振りながら言うと、母は苦笑した。
「二年やそこらじゃ人は変わらないわよ。それにあなたったら、勝手に休学届を出して渡米するんだもの。
お父さんそれだけでもカンカンだったのに、いきなり『結婚するから相手に会って』でしょ。ゴキゲンでいろって方が無理があるわ」
波留江は風に煽られた髪を抑えた。
しばらく会わないうちに、髪に白いものが混ざっている。
「……いきなりなのは重々しょーちしてます」
「お父さん、よくも悪くも昔気質の人だから。昭和で時間が止まっているというか。
だから外国の人に苦手意識があるの。打ち解けるまでに時間はかかるけど、大目に見てあげて」
「はぁい」
間延びした返事。
先ほどの、カイルと両親の初対面の場面を思い返す。確かに父は、気後れしているようだった。母はこのとおりのんびり屋さんなので、軽い調子で『Nice to meet you』なんて握手していたが。
最初のコメントを投稿しよう!