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(まあ、これからよね)
と思い直し、飲み物を持って男性陣の元に戻ろうとした時。
「あら、ケーキ屋さん?」
母が急に歩を止め、ベンチに座っている二人組に話しかけた。
高校生くらいの男女だった。
男は今時珍しいカッチリとした学ランで、女の方はダークブラウンを基調としたブレザーだった。
誰だろう? みちるが訝しんでいると、少女は、
「こんにちは、汐野様」
花が咲くような笑顔でそう応えた。
黒目がちな大きな瞳と、腰まで伸びた黒い髪が印象的だった。
少女の傍らには風呂敷に包まれた一段重ねの重箱が置かれている。
一方、少年は膝の上にスケッチブックを広げ、色鉛筆で一分咲きの桜と、澄明な水が清々しい池の風景を写し取っていた。
「お重を持って、お花見かしら?」
「はい。今日はお店がお休みですので」
「いいわねぇ。来週になったら満開になって、人が増えるから丁度いい時期かもしれないわね」
女子高生と気安く言葉を交わす母にびっくりしていると、二人に紹介された。
「この子はうちの末娘のみちる。
みちる。こちら、私がよく行くケーキ屋さんの店員さんよ」
少女はみちるに向かって、丁寧に頭を下げた。
「初めまして、〈Petite Patisserie PoMMe〉の奈月(なづき)と申します。
いつもお世話になっております」
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