さくらなでしこ

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(邦訳は『小さなお菓子屋さん、りんご』かな)  フランス語に暗いみちるでも、それくらいは分かった。  若いのに礼儀正しくて感心だわぁ。と、おばちゃんめいたことを考える。  母が口元に手を当てて、くすくすと笑う。 「ふふ、お店の服装じゃないから、一瞬誰か分からなかったわ。二人とも、本当に高校生だったのねぇ」  二人とも、ということは、じっと黙っている男の方もケーキ屋の従業員なのか。  レトロな詰め襟の学生服と学帽を身に着けた少年は、色鉛筆を走らせる手を止め、スッと顔を上げ、目礼した。  先ほどとは比べものにならないくらいの驚きが、みちるを襲った。 「What a beauty……」  自分でもアホみたいだと思ったが、そんな言葉が口をついて出た。「オーマイゴッド」と言わなかっただけマシと思いたい。  そんなマヌケな反応をするほど、その少年はとんでもなく見目麗しかった。  みちるもアメリカで華やかな容貌の人間は数多く見てきたがーー彼は少し毛色が違っていた。人種的な意味ではなく。 「こちらは会崎(あいざき)と申します」  奈月が明るく紹介する。  みちるは、会崎の類い稀なる容姿を表現できる言葉を、英語と日本語の脳内辞書で検索していたが、 「ふざけるな!」  その時、鋭い叱責の怒号が空気を切り裂いた。  それは父の声だった。
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