さくらなでしこ

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 奈月から渡されたのが、ティッシュではなく懐紙なのに驚いた。  懐紙は携帯できる小ぶりの二つ折り和紙で、主に茶の席で使われる。ハンカチ、ちり紙、メモ用紙、皿、包装紙など、様々な用途を果たすが、日常生活ではそうそうお目にかかれない。 (やたら美形な店員といい、このケーキ屋って……ちょっと)  『strange』という単語が浮かんだが、ありがたく貰い受けた。  カイルのスーツの汚れを落とすと、手近なベンチに腰を下ろした。  隣のベンチでは、会崎が何事も無かったかのように風景スケッチを続けている。 「(ねぇカイル。もう一度聞くわ。一体何があったの?)」 「(本当に分からないんだ。お父さんが質問をしてきて、それに答えたら、突然あんな……)」 「(質問? どんな?)」  みちるが英語で問うと、カイルは落胆しきった表情になった。 「(みちるのことをどんな女性だと思っているか、と)」  途切れがちで発音もガタガタな父の英語は、ひどく聞き取りづらく、何度も聞き返してしまったと言う。  意外だった。  カイルのことを話したとき、父は「儂は絶対に英語はしゃべらん」と豪語していたのに。 「(……あなた、いつもの調子でブラックジョークを返したんじゃないでしょうね)」 「(そんなことしないさ! ボクなりの言葉で、みちるは素晴らしい女性だと伝えたよ!)」  カイルは強く否定した。  彼の性格上、嘘はついていないだろう。  なのに何故、父は激怒したのだろうか。  何度も聞き返されたから? そんなまさか。
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