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……「結婚は許さない」、「勘当だ」と父は言った。
今になってその言葉は、ゆっくりとみちるの心を沈み込ませ、暗澹たる気持ちにさせる。
この結婚話が、すんなりと進むとは思っていなかった。
父はあの性格だし、みちる自身も気が強い。衝突は免れないだろうと覚悟はしていた。
だが、こんなことは想定外だった。
まだ何も、始まってすらいないはずなのに。
(……どうしよう)
不安が心臓の鼓動を早めさせる。
狼狽するカイルをクールダウンさせようと努めたが、うまくいかない。
強い憂慮に襲われるみちるの鼻先に、ふわっと、あたたかい空気が流れた。
奈月が微笑んで、みちるとカイルに紙コップを差し出していた。
「どうぞ。あったまりますよ」
湯気立つ紙コップをおずおずと受け取ると、冷えた指先がぬくもりを吸い込んだ。
緑が鮮やかな煎茶だった。ひとくち飲むと、ほわっと全身に熱が伝わった。
「……あったかい」
ほぅっと安堵のため息をついた。
カイルもリラックスしたようで、厳つく見える顔が緩んでいる。
「よかったです。あと、これもどうぞ」
心安く、懐紙に載せられたお菓子も渡される。
ピンクのつぶつぶとくすんだ緑の葉っぱ、こんもりとした形が可愛らしいそれは、懐かしの和菓子だった。
「桜もちだ。なんか久しぶり」
「(サクラモチ? 何だい、それは)」
「じゃぱにーずすいーつです」
カイルの質問に、奈月が思いっきり日本語の発音で答えた。その屈託の無さに、つい笑みがこぼれる。
会崎にも煎茶と桜もちをふるまう奈月も、みちるにつられたように笑った。
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